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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)1305号 判決 1956年4月12日

主文

原判決を破棄する。

被告人を免訴する。

理由

被告本人の上告趣意について。

論旨は、違憲をいう点もあるが、その実質は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張に帰するものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権で調査すると、原判決は被告人に対し刑法二三〇条の名誉毀損の事実を認定しないで、侮辱の事実を認定した上、被告人の右所為を同法二三一条に問擬していることが、その判文上明らかであるところ、刑法第二三一条の所為は、拘留又は科料に該当する罪であるから、犯罪行為の終った時から一年の期間を経過することにより、公訴の時効は完成するものである。記録によると、被告人が本件の所為をなしてより一年一月余を経過した昭和二七年一〇月一一日に、検察官から公訴の提起があったことは起訴状により明らかであって、たとえ、起訴状記載の訴因及び罪名が名誉毀損であるにしても、原判決は名誉毀損の事実を認めなかったこと前示のとおりであるから、右起訴の当時すでに本件所為につき公訴の時効は完成したものというべきである。されば本件の場合においては、刑訴四〇四条、三三七条四号により、被告人に対し免訴の言渡をなすべきものであるのに、原判決が前示刑法二三一条に問擬し、有罪の言渡を為したのは違法であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴四一一条一号により原判決を破棄し、同四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三七条四号により被告人に対し免訴の言渡をなすべきものとする。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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